お母さん泣かないで
お母さん、最近なんか一方的にいろいろ巻き込まれた嫌な事があったようです。
会社でよく分からないイチャモンを付けられて、とっても嫌な気持ちになったそうです。でも、イチャモンを付けてきた人は、会社では問題のある人として扱われている人なので、周りはみんなお母さんの味方でした。
お母さん、家に帰るなりボクを仰向けにひっくり返して、ボクのお腹に顔を埋めて泣きながら辛かった辛かったと、ずっと言ってました。
ボクはお母さんが泣き止むまで、仰向けにひっくり返ったまま、ただじっとしてました。
お母さんの悲しみがボクのお腹のモコモコの毛から涙と一緒に伝わってきて、ボクはずっと天井を見上げていました。
しばらくして、お母さんはボクを解放すると、ボクにごめんねと言って、ボクのご飯の支度を始めました。
お母さんの涙でびっしょりになったボクのお腹の毛づくろいをしたら、なんだかしょっぱかったです。涙ってしょっぱいんですね。ボク知らなかったです。
その後、お母さんはご飯を食べながらボクにいろいろ話してくれました。ボクはただじっと聞いていました。
散々話した後、お母さんはボクにどう思うと聞いてきました。どうと聞かれて、ボクはお母さんにこう答えました。
「お母さん、ボク、猫なんでよく分かんないです。」
そう言ってボクが猫じゃらしで遊んでいると、お母さんはちょっと笑いました。そっかー、そうだよねーと言って。
お母さん。
ボクにはよく分からないのですが、人間てきっと猫より複雑なんですかね。
と言っても、ボクは猫の世界も分かりません。
だって、生まれてすぐペットショップに行き、ショーケースの中から沢山の人間を見てるうちに、いつのまにかお母さんの子になってたのですから。
ボクはお母さんとずっと二人暮らしなので、ボクはお母さんの事とボク自身の事しか分からないのです。
だから、ボクの世界はこのお家の中にお母さんがいるというそれだけの世界なので、お母さんの味わったお外の世界にいる生き物との出来事が分かりません。
ボクは毎日この平和なお家の中で、お母さんと一緒にこの命が全うされるまでただただ生きていく。それだけなんです。
だからお母さん、泣かないで。
ボクのお腹で涙を流して、ボクに答えを求めないで。
ボク、お母さんが大好きです。
でもボク、お母さんの気持ちを分かってあげられない。だってボク、猫ですから。
お母さん、また明日ボールで一緒に遊んでくださいね!